第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「吉野、オマエの譲れないものってなんだ?」
「譲れない、もの……」
「そう。それがないと、この先 やっていけねぇぞ」
譲れないもの。一本 芯の通った“何か”。
「僕は……」
母を殺した呪詛師を見つけたい。
それと同じくらい、今の居場所を守りたい。
高専で過ごす時間は楽しくて、失いたくないと思っている。
皆を守りたいなんて、そんな高尚な気持ちではない。せっかく手に入れた居場所を失くしたくないだけ。
今まで逃げてばかりだった。
譲れないものなんて大層なものではないけれど――強くなりたい。
“強い自分”でありたい。
――「僕はもう逃げない! 逃げたくない! どんなに苦しくても、どんなに辛くても……それだけの力をここで手に入れる‼」
口先だけじゃない。
高専の面談で言ったことは本心だ。
だから――……。
・
・
・
そうだ。
逃げないと決めたではないか。
気弱さなんてねじ伏せろ。
痛みを超克しろ。
今までとは違う。
自分には戦う力がある。
「【澱月】――やれ!」
順平が号令を出すと、【澱月】は果敢に血塗へ飛びかかり、触手を伸ばした。
* * *