第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「順平の動機は知らん。何か理由があるんだろ」
出会って間もないが、理由もなく誰かを攻撃するような人間でないことは分かっている。
「でも本当に、あの生活を捨ててまでのことなのか? 人の心がまやかしなんて、あの人の前で言えんのかよ!」
あの人――順平の母親は豪快な人だった。
それでいて、繊細な順平の心に寄り添い、どこまでも母親らしく、息子を導いていた。
母の言葉が自分を救ってくれたと話してくれたではないか。
何より、順平が母親を大切に思っていたことも、見ていれば分かる。
タバコを止めるように言っていたのも、酔い潰れて眠っていた母親に毛布をかけてやったのも見た。それは順平の心に母への深い愛情があったからのはずだ。
だが、順平は顔を伏せたまま、虎杖の言葉に首を振る。
「人に心なんてない」
「オマエッ、まだ――」
「ないんだよ!」
虎杖を遮り、順平は震える拳を廊下の床に打ち据えた。
「そうでなきゃ……そうでなきゃ!」
顔を上げた順平は、虎杖に殴られた傷と涙でボロボロだった。その表情に、虎杖は言葉を失くす。
「母さんも僕も、人の心に呪われたって言うのか……‼」
そんなの、あんまりだ……。
順平はそう続け、【澱月】を呼んだ。
【澱月】が鋭い棘を伸ばしてくる。
「もう……何が正しくて……何が間違っているのかも……」
先を続けることなく、順平は【澱月】に命じた。鋭い棘が切っ先を鈍く光らせながら、虎杖へ向かって素早く伸びる。
――ドドッ
弾けた鮮血に、順平が愕然と目を見開いたのが見えた。