第5章 五夜目.雨
—17小節目—
SECRET NIGHT
大切にされている自覚はあった。彼はいつでも理性的で、紳士で。しかしそれが、エリを時折不安にさせた。
この気持ちをどう言い表せば良いのだろう。胸は締め付けられ、声が出ない。だからこそ、勝手に身体が動いたのかもしれない。エリは言葉でなく、行動で壮五に訴えかける。
突如として恋人に馬乗りされた壮五は、目を大きく見開いた。まさに驚きの声を上げようとする寸前、ぱたっと頬に水滴が落ちてくる。
その冷たい感触は、エリの気持ちを壮五に伝えるに余りあった。
ゆっくりとした動作で腕を持ち上げ、エリの頬に出来た濡れた道筋を指でなぞる。
「…間違っていたのは、僕の方だね」
エリは首を振る。
「ううん。エリさんに寂しい思いをさせて、不安にさせたのは事実だから。どんな言い訳も立たないよ」
『違っ、壮五さんが、私を大事にしてくれてるのは分かっ』
言い終わるより早く、壮五はエリの唇を塞ぐ。驚きと喜びで、涙など瞬時に乾いてしまう。
「君がとても大事だよ。だからこそ、そんな君を深く悲しませてしまった自分が不甲斐なくて。
エリさんさえ良ければ、名誉を挽回する機会をもらえるかな。これから、今すぐに」
その眼差しは優しいのに、奥の奥では男の色香が光って見えた。そんな視線にあてられて、首を振れるはずもない。