第5章 五夜目.雨
『あ、そうだ!話はガラリと変わりまして!』
楽しげに手を打ち鳴らすエリを前に、元気だねと壮五は顔を綻ばせた。すっかりいつもの様子に戻った壮五を見て、エリの表情もまた緩くなる。
『無事オーディションに合格した壮五さんに、私から特別なプレゼントを用意しました!』
「え?わざわざそんな…でも嬉しいな。なんだろう?」
『なんと…、プレゼントは、わ・た・し♡』
練習を重ねた成果もあり、流し目も肩のチラ見せも上手くいった。しかしながら、場は盛り上がるどころか冷え切ってしまったように感じる。これは肌を露出させたせいではないだろう。
『〜〜〜っ、そんなふうに、あからさまに固まらなくったって!』
「ふ、ふふふっ、あはは!」
『笑い飛ばして欲しいわけでもないのだけど』
「ごめんごめん!だって、今どきそんな誘い文句を本当に使ってしまう人がいるなんて信じられなく…」
不自然に言葉を切った壮五の、視線の先。そこには、付箋だらけの雑誌があった。ベットの下に隠したつもりのエリであったが、詰めが甘かったようだ。そのいわゆる軽薄な部類に入る雑誌を丸々参考にしてしまったことは、きっと彼にバレてしまったに違いない。
「君を惑わせた悪い雑誌はこれかな?」
『私、間違ってしまったのね』
壮五は、折れ癖のついたページを開く。露出度の高い女性が、挑発的なポーズで妖艶な表情を浮かべている。記事の見出しはこうだ。
《 彼を最も喜ばせる方法 》
「間違ってなんてない。だって僕は、とても嬉しかったよ」
そうは言いながらも壮五は、出っ放しになっていたエリの細い肩を優しくしまった。
「僕を喜ばせたいっていう、エリさんの気持ちが本当に嬉しかった。でも…その、こういうことは、焦ってどうこうするものじゃないと思うんだ」