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十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




「環くんは、中崎さん本人にその気持ちを伝えたことはないんだよね?」

「うん。ほんとはめっっちゃ言いたいけど、言ったらえりりん困るかなって…」

「驚いたな…!環くんが、そこに気付けるなんて」

「なあ。あんたの話って俺に喧嘩売ること?」


違う違う!言いながら、壮五は首を左右にぶんぶんと振る。その勢いは、環の髪を揺らすほどの風が起こるくらい強かった。


「なんだよ。じゃあ、そーちゃんの話ってなに」

「何も言わないで、僕の提案を受け入れて欲しい」

「相変わらず前置き長ぇんだって」

「ねぇ、環くん。僕のこと、信じられる?」

「当たり前じゃん」


即座に返された言葉に、壮五は思わず瞳が潤みそうになる。しかし、今は嬉し泣きなどしている場合ではない。


「君は早い内に、エリさんに告白すべきだと思う」

「え!?まじで?言っていいの?」

「はは。言いたくて言いたくて仕方がないって感じだね」

「当たり前じゃんか!」


二度目の “当たり前” に、壮五はついに声を出して笑ってしまう。


「本当に、よっぽど好きなんだね。やっぱり中崎さんの作った壁を壊せるのは君だけだと思う」

「え?壁?えりりんって、自分で家造ったん?」

「いや、そういう意味の壁じゃなくて…」

「てか、俺えりりんの家知らねえから、そもそも壊すとか無理だけどな」

「知ってたら壊すの!?」

「まさか。そーちゃんじゃあるまいし」

「僕だってそんなことしないよ!」


二人でひとしきり笑った後、壮五は環の背中にそっと手の平を置いた。


「ん??なにそれ」

「気合いの注入。どうか、君の告白が上手くいきますようにって」

「……ふーん」


しばらくされるがままになっていた環だったが、やがてぽつりぽつりと落とすように言う。


「あのさ…。俺、そーちゃんのこともだけど、IDOLiSH7も大事だよ。だから、そういう大事なもん壊れないように、なんか色々気を付けるから。でも俺は馬鹿だから、何をどう気を付ければいいのかよく分かんなくて…」

「大丈夫だよ。そういうことが大切だって、分かってくれてるだけで十分だから。これから一緒に、考えていこうね」


そう告げると、環はほっとしたように飛び切りの笑顔を浮かべた。

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