第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
「それでは、これより軍議を始める」
大広間に響く秀吉さんの神妙な声を聞きながら、私の心の臓は高まる緊張に押し潰されそうになっていた。
(うぅ…何でこんなことに…誰か、助けて!)
信長様と中身が入れ替わってしまった私は今、信長様として軍議に参加している。
座り慣れない上座の席で落ち着きなく手元の鉄扇を弄りながら、始まったばかりだというのに一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたい気持ちで一杯だった。
百戦錬磨の武将達を相手に信長様を演じ切れる自信などある筈もなく、信長様に押し切られてこの場に来てしまったことを早くも後悔し始めていた。
いや、そもそも初めから無理があるのだ。たとえ見た目がそのままであっても、私が信長様に成り代わって軍議に出るなど無謀過ぎるというものだ。それなのに信長様ったら……
(あれ、絶対面白がってたよね…)
私を無理矢理軍議に送り出した際の信長様の意地悪な笑みが頭に浮かぶ。
「御館様?如何なさいましたか?」
軍議の開始を宣言しても信長から声が掛からないことを不思議に思った秀吉は遠慮がちに上座の様子を窺う。
常に自信に満ちた堂々たる佇まいで他者を圧倒する信長らしからず、落ち着きなく視線を泳がせる様に秀吉は戸惑いを隠せない。
「御館様、あの、どこか具合でも…?」
「な、何でもない。ほ、報告を…」
「はっ!まずは堺の異国商館からの報告ですが、四、五日中に新規の商船が入港予定とのことです。御館様にも是非、商談に同席頂きたい旨の要望がございました。急なことですが、如何致しましょうか?」
「そ、そうか…」
(堺で新規の商談?如何致しましょう、って言われても…どうしよう、私が勝手に決めていいのかな?でも、信長様だったらきっと…)
「御館様?」
何事も即断即決、周りに悩む素振りなど見せることのない信長が珍しく思案する様子に秀吉を始めとする武将達の間に胡乱な空気が漂う。
「……おい、今日の信長様、何か変じゃねぇか?」
「変って、どう変なんですか?政宗さん」
「いや、よく分かんねぇけど、いつもの威厳がねぇっていうか、どうにも落ち着きがないというか…」
「くくっ…それではまるで別人のようだな」
「おい、お前ら、滅多なことを言うな。無礼だぞ。特に光秀」