第9章 風柱と那田蜘蛛山
杏寿郎が本音で言っていることは理解出来るが、継子として毎日鍛錬を付けてもらっていても全く追いつけない自分が情けなくなってしまう。
駄々をこねるように足で地面を踏み締めたくなる気持ちを抑え、役に立たないのならばと杏寿郎から少し距離を取って刀を構え直し、師範の闘う姿を目に焼き付ける。
更紗がいとも簡単に受けた攻撃を杏寿郎はものともせず、無駄のない動きで攻撃を軽くいなしながら相手の出方を伺っているようだ。
(そのうち私にも死角から隙を狙って攻撃を仕掛けてくるはずですが……その前に)
警戒を怠らぬまま全神経を耳に集中させる。
杏寿郎が見えない攻撃を弾く度に鼓膜を刺激する金属音、重さのあるものが空気を切る音、足元に巻き付いて来たことを考えると長さもそれなりにあると想像出来る。
(予想通りでしたら……あの当主らし過ぎて呆れそうです)
「師範、考えがあります!少しで構いません、私に時間を下さい!」
更紗の声に反応した杏寿郎は背を向けたまま僅かに顔を後ろへ向け、視線だけを動かし自信ありげな赫い瞳を見つめる。
(ある程度居場所は掴めたが……やらせてみるか。更紗でも全力を出せるならば勝てるかもしれん)
杏寿郎は口角を上げその声に応える。
「やってみるといい!前へ来い、俺は下がるぞ!」