第9章 風柱と那田蜘蛛山
そんなことをしていると杏寿郎の口から小さく息がこぼれ、頭から胸へと流れた髪をゆっくりと梳かれた。
「謝らなければならないのは俺だ。守ってやれずすまなかった」
謝罪されてしまった更紗は唇をキュッと引き結び、抱き寄せられている腕の力をものともせず強引に杏寿郎へ向き直り、少し垂れ下がっていた目を見つめる。
「違います!私は炎柱、煉獄杏寿郎様の継子です!師範に守られるのではなく、あの時は私が咄嗟に反応して身を守らなくてはいけなかったのですよ。杏寿郎君は私に対して優しすぎます」
いつの間にかこれ程までに自分に対して意志を伝えることが出来るようになった継子に閉口しつつ、それすら嬉しいのか少し表情を険しくして見上げてくる小さな顔へ、笑顔を向けて両手で包み込む。
「君に優しすぎると言われる日が来るとはな!だが、そんな険しい顔も愛らしいと思う俺はどうやら末期のようだ」
そう言って未だに引き結ばれている唇へ自らの唇を落とすが、すぐに赤くなる顔を楽しんでいるようで笑いを堪えている。
「いつまでも慣れないでいてくれ、その反応が愛らしくて堪らん!さぁ、俺が言うのもあれだが、髪を結い上げたら宇髄達と合流しよう!もう任せた事も済んでいるはずだ!」
「慣れたくても簡単には難しそうです……え?任せた事とは?」
まさかここであの忍達の事を詳しく説明する気になれず、髪を結い上げながら眼差しを向けてくる更紗を苦笑いで濁して玄関へと急いだ。