第9章 風柱と那田蜘蛛山
瓶の中には僅かな量であるが赤い液体が底の方に溜まっている。
それを見た瞬間、杏寿郎はどうにか胸の奥にしまい込んでいた激しい感情が沸々と湧き上がる感覚に襲われた。
「…… 更紗の血か」
静かな声音であっても心の底から相手を震わせるほどの怒気が込められている。
天元は1度、更紗が攫われた際に杏寿郎の激しい一面を見ており驚きはしないが、実弥や義勇はこれ程までに怒りを内に秘めた杏寿郎の姿に驚きを隠せずにいた。
地面に横たわっている3人に至ってはその怒気に眉を寄せ目を細めているものの、戦闘に関して素人ではないのか震えや恐れを表に出す事はしていない。
「俺はこいつらの1人を捕らえただけで現場は見ていない。だが、その捕らえた奴が持っていたので、その2人がそうだと言うならば間違いないだろう」
相変わらず感情の起伏を感じさせる事のない静かな水面を思わせる話し方であるが、男たちに向けられた義勇の視線は侮蔑を含んでいるような厳しいものだ。
それもそのはず、これだけの量の血液を手にする為に何の罪もない少女の命を危機に陥れたのだから。
「チッ……てめぇに捕らえられたことは不服だが、鬼の手に渡る前に捕らえたことだけは褒めてやらァ」