第9章 風柱と那田蜘蛛山
ハキハキとした声音とは裏腹に、肩に置かれた手は微かに震えている。
千寿郎はそれを感じ取ると、垂れ下がっていた目尻と眉を持ち上げ大きく頷いた。
「僕はもう大丈夫です。兄上や柱の方々が戻られるのを更紗さんと一緒にお待ちしています!どうかご無事で」
いつも心優しく、任務に出る際は必ず笑顔で送り出してくれる弟の力強い言葉と表情に杏寿郎は面食らうも、まるで力を分けて貰えたかのように心にも体にも熱が帯び、手の震えもピタリと止んだ。
「ありがとう!では行ってくる!見送りはいいので、更紗と胡蝶の元へ行ってくれ。任せたぞ!」
「はい!行ってらっしゃいませ!」
やはり見送る時は笑顔を見せてくれた千寿郎の後ろ姿を確認してから、父親の姿を探しつつ玄関を出て庭を通り過ぎていく。
ようやくその姿が目に入ったのは、門を出た直後であった。
「父上」
「……責めはせん。だが、二度とあってはならん事だ。とにかく今はあの子から危険を遠ざけろ。この家の付近は小芭内と甘露寺、俺が警護するので、お前は心配せず行ってこい!」
槇寿郎の手には、更紗が最終選別の際に持って行った刀が握られていた。
折れてしまい落ち込んでいた更紗の姿を見ていたたまれなくなり、こっそり打ち直してもらっていたようだ。