第23章 上弦と力
つい先程まで鳴り響いていた激しい戦闘音は一切なくなり、今は耳が痛くなるような静けさに包まれている。
その静けさが何とも悲しさを運んできて更紗の頬に一筋の涙を流させた。
「あのさ、俺にも詳しく分からないけど……たぶん猗窩座は恋雪さんと記憶の中で会えたと思うよ。自分に攻撃する直前、懐かしみ悲しみながら……優しい匂いを漂わせていたから」
炭治郎の言葉は猗窩座の笑顔を裏付け、チクリと痛んでいた更紗の胸を暖かく包み込んでくれた。
「はい……杏寿郎君の言ったように優しい記憶を手繰り寄せることが出来たのですね。ありがとうございます、炭治郎さん。これで何の心残りもなく先へ進めます」
涙を拭いふわりと微笑む更紗の頭を杏寿郎が優しく撫でる。
「きっと来世で2人は幸せになれるだろう。さぁ、先へ進もう。続々と本拠地内に剣士たちが送り込まれている。上弦の鬼もまだ残っているので、助太刀に向かわなくては」
猗窩座を倒したからと言ってこの闘いが終わったわけではない。
ここでじっとしていられるほど、この場の4人に時間的余裕は全くないのだ。
皆が鎹鴉からの情報を聞こうと体を向けるが、一足先に義勇がテチテチと情報係の鎹鴉へと歩み寄っていた。