第23章 上弦と力
強い怒りは何に対してか分からないが、あとの感情は先ほど猗窩座が口にした恋雪という人物に対してのものだろう。
「恋雪さんへの感情……少し分かる気がします。もし猗窩座が恋雪さんを守れなかった過去があるのならば……そういった感情をもつのは普通だと思いますし。だからと言って猗窩座の今までの行動が許されるわけではありませんが、やっぱり鬼は悲しい生き物です」
酷く沈んだ更紗の言葉に、他の3人は今も尚再生と崩壊の間を行き来している猗窩座を見遣る。
「そうだな。鬼となり記憶を無くしても残り続けた恋雪という者への強い想いは悲しいが……きっと共に過ごしていた時は幸せだったに違いない。強い怒りではなく、優しい記憶を思い出して欲しいと思う」
そう杏寿郎が言い終えた瞬間、再生する道を選んだかのように猗窩座の顔が原型を取り戻し腕を振り上げた。
4人は悲しみに眉をひそませた後、すぐに迎え撃つために限界が近い体に鞭打って日輪刀を構え直す。
「来るぞ、全員先ほどと……なんだ?」
義勇の静かながらも張り詰めた言葉は途中で途切れ、目を疑う猗窩座の行動に釘付けとなった。
猗窩座が拳を振り上げたのはこちらではなく、自分自身だったからだ。