第23章 上弦と力
絶望の上に更に絶望が塗り重ねられた。
そんな化け物相手にどう勝てばいいのか、それこそ千寿郎をもってしても分からない。
せめてどこからか陽の光が振り注げば勝つ見込みもあるが、そんな都合良く事が進むなどとは考えづらい。
「え?と言うことは参も弱点の1つを克服するかもしれないってことよね?……ダメダメ!可能性の1つに私たちが不安になっても仕方ないわ!今はただ更紗ちゃんたちが勝つ未来を想像しましょう!こんなにも頑張ってるのよ?応援してあげなきゃ!ほら、鴉さん!お母さんもお父さんも千寿郎君も応援してるって伝えて!」
紗那はもう鎹鴉のことを伝書鳩か何かだと思っている。
流石にこう何度も闘いの最中に関係の無い言葉を伝えるのはどうかと思い、気を持ち直した涼平がそれを制止した。
「命懸けの闘いをしているんだよ?何度もこちらの声を届けて気が逸れたらどうするんだい?鴉君も困って……」
「竈門隊士ガ鬼ノ頸ヲ斬リマシタ!……上弦ノ参、消滅セズ。頸ガ再生シツツアリマス」
可能性の1つが現実となってしまった。
この場の全員に緊張と恐怖が走り、一気に部屋の中が静まり返る。
「嘘でしょ……こんなのって」
紗那の悲痛な小さな呟きは静かな部屋に響き、やがて霧散していった。