第20章 柱稽古とお館様
よく分からないまま素直にありのままの気持ちを伝えると、感情表現が人より乏しい顔に僅かだが笑みが滲んだ。
「そうか、それならいい。夜は眠ればすぐに明ける。月神はここで休め、俺は違う部屋に行く」
人様の寝室で休むなど普段なら間違いなく申し訳なくて辞退願っていたが、ここで断ってしまえば義勇が再び嫌われていると勘違いしそうである。
せっかく笑顔になり善意で申し出てくれたのだから……と更紗は心の中で自分に言い聞かせて頭を下げた。
「ありがとうございます。でも流石にお布団は申し訳ないので、先ほどのお部屋のものを使わせていただきます」
悲しい顔をしていないかと僅かに顔を上げて様子を伺うが、変わらず口元には笑みがたたえられたままだった。
「あぁ、好きにして構わない。運ぶのなら手伝うが」
「いいえ、お部屋をお借りするのにそこまでしていただけません。明日も冨岡様が1番大変だと思いますので先にお休みください」
やはり優しい気遣いに胸の中をポカポカさせながら更紗は立ち上がり、義勇の後に続いて部屋を後にした。
「明日の昼までが期限であることを忘れないようにな」
思い出したように廊下で立ち止まり背を向けたまま放たれた言葉は、しっかりと更紗に釘を刺していった。