第20章 柱稽古とお館様
当初の予定通り、義勇の屋敷へは昼を少し過ぎたくらいに到着した。
近くに竹林があり、物珍しさから少し寄り道したのは更紗と神久夜だけの秘密である。
重厚な門をくぐり玄関の前に辿り着くが、小芭内の屋敷同様人の気配はあるのに物音どころか声すら聞こえてこず、更紗は神久夜と顔を見合わせて首を傾げた。
「静かですね。冨岡様はどちらにいらっしゃるのでしょう?この時間だとまだ稽古はしていますよね?」
「恐ラク……道場へ向かってミマスカ?」
屋敷の中からは人の気配がしないので、道場へ行くしかなさそうだ。
神久夜の提案に頷き道場がある場所へ足を向けるが、更紗は今まで何度か地獄絵図を道場や稽古場で目撃したので嫌でも忍び足になってしまう。
そうして道場の前に何事もなく辿り着き扉を開ける前に一度立ち止まり、心の準備のために深呼吸を1つ。
「ふぅ……よし。冨岡様、月神です。今日から稽古……お願い致し……ます」
地獄絵図ではなかった。
義勇は怒ってもいないし剣士たちは怪我もしていない。
だが、それだけ。
静かに佇む義勇の前に剣士たちが半分死んだような目をして立ち尽くしている光景が更紗の瞳に映った。