第20章 柱稽古とお館様
次から次へと疑問が浮かび上がるが、そちらに意識を集中させていても恐怖は一向に去っていってはくれず、それどころか益々増幅するばかりだった。
(……どうしよう、もう鬼が襲ってくるの?でも襲ってくるなら偵察なんて既に終わらせているはずですよね?何にせよ悲鳴嶼様に伝えなくちゃ……早くどこかに行って!)
小刻みに震えながら必死に願うが、なかなか目は戸の前から移動しようとしない。
更紗がいるとは察知していないだろうが、近くに人がいるのを感じ取っているのかもしれない。
そんな膠着状態がしばらく続き、ようやく更紗がその場から開放されるのは四半刻近く過ぎた頃だった。
底知れぬ恐怖に長時間晒されていた更紗は全身から汗が流れており、顔も涙で濡れていた。
「杏寿郎君にも伝えなきゃ……先に悲鳴嶼様に……どうしよう、腰が抜けて立ち上がれません。こうなれば這ってでも移動してみせます」
汗や涙でまみれた浴衣で廊下を這いずることに罪悪感を感じたが、今はそんなことを感じて腰を抜かしたままでいられる状況ではない。
心の中で何度も行冥に謝罪しながら這いつくばり、腕で体を引きずり始めてすぐに目的の人物が目の前に現れてしまった。