第18章 心が痛むか、体が痛むか
お店から少し離れたところでタクシーを拾い、後部座席に母親を詰め込んだ。その隣に私が乗り込む。
母の家がどこにあるかは知っていたので運転手さんに行き先を伝えた。
春風さんは体のいいことを言って実弥を連れて帰ってくれたが、あの人大丈夫だろうか。
実弥はパニックになってたみたいだし心配だな。
隣に座る母親は俯いて顔を上げなかった。
お金は私たちが“親子”という関係を断つのに必要なものだった。お金を渡す代わりに母は私に関わらない、というのが暗黙の了解だったのだ。
お金さえ渡せば、母は連絡も寄越して来なかった。私に関わることはなかった。それなのにしくじった。私が失敗してしまった。
そのせいで二人に迷惑をかけてしまった。
申し訳なかった。
タクシーの座席に全体重を預けて窓の外に目をやった。
景色が前から後ろへと流れていく。
もうこのまま、私という存在も流れていってしまわないだろうか。
母の家は少し古いマンションだった。お金を払い、タクシーを降りる頃には自分で歩けるようになっていた。
「あんた、上がってく?」
「うん」
さっきまでのことが嘘のように母は柔らかな口調で話した。
家に上がると、想像より部屋の中は少し汚かった。一人暮らしなのに、立派な仏壇があった。
それは病気で亡くなった父親のものだとわかる。
「お茶?」
「うん。」
母はコップに麦茶を注いでくれた。
「お見合いのこと聞きたいんでしょ?」
母があっさり言うので、私は頷いた。