第70章 隔てる壁
「っ!!」
柱達は息を呑んで、無意識に頭を下げた。
「産屋敷家が代々短命なのに対して、私の血縁者は、皆身体が頑丈です。しかし、鬼狩りになったのは、この千年で私一人。恐らく、戦うために生かされておきながら、誰一人として、責務を全うしなかった。私は全て背負う覚悟です。お館様が命を削り、重圧に堪えている以上、私も出来得る限りの全てをやります。柱として、刀を振るいます。皆様にお願いしたい事はただ一つ。二度と私のために時間を無駄にしないこと。お館様すら、護衛を拒否されているのに、隊士である私が、特別扱いされてはなりません」
「ならお前も行動を弁えろ」
伊黒は、接し方に戸惑いながらも、口を開いた。
「お前がいなければ、無惨に勝てないのだろう? 身の振り方を考えろ」
「状況が整えば、他の柱のみでも、無惨を滅する事は出来ます。私の役割は、状況を整えることと、無惨の行動を制御すること。死も覚悟の上です。幸い、元炎柱様が手助けを申し出てくださいました」
「⋯⋯」
悲鳴嶼は、珍しく不快感を露わにした。当代柱の最古参として、彼は元炎柱の失態を目にして来た。
下弦ノ弍をいたずらにいたぶり、殺さず放置した事で、被害は拡大し、煉獄杏寿郎が大怪我を負う羽目になったのだ。一言で言えば、信頼出来ない相手だった。
「⋯⋯火憐」
産屋敷は、掠れた声で呼び掛けた。病に冒されながらも、その表情は穏やかだった。
「誰よりも⋯⋯信頼しているよ。⋯⋯自由に生きなさい。ありがとう」
彼は柱の面々に顔を向けた。
「私はね、半年前には、夏に死ぬと余命宣告を受けていたんだ。未だ、こうして皆と言葉を交わせるのは、火憐の尽力あっての事だ。⋯⋯愚かだった。この子の聡明さに触れた時、私は産屋敷家が背負って行くべき役割を、この子に背負わせようとした。だけど、火憐は戦いたいという。誰よりも、戦う能力が高い。自分の生まれや、立場を受け入れて、真っ直ぐ突き進むこの子を⋯⋯私は信じようと思う」