第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
お姉さんとしては、少しでも安心させてあげたい。
でも、はい任せて下さい、なんて簡単に言える程、仕事に慣れていないのを分かっていた。
その場しのぎの嘘じゃなくって、もっとちゃんとした言葉で、紡さんから信頼されたい。
どうしよう、どうしたら、と少し考える。
考えながら出てきた言葉は、我ながらセンスが無いなと思った。
「アイドリッシュセブンの皆さんは、とても良い人達だって、私知ってます。もし私が、何をしたら良いのか分からなかったら、きっと皆さんが私に教えてくれます。私はまだ新人ですが、仕事で手を抜きたく無いんです。そんな事、覚えちゃいけないんです、多分。だから精一杯、私なりに、頑張ります。紡さんやアイドリッシュセブンの皆さんにご迷惑かけないように。頑張ります、至らない所はございますでしょうが、頑張らせて下さい。お願いします」
これは決意表明。
だから頭は下げない。
変わりに、紡さんの目を真っ直ぐ見つめる。
紡さんは、ぱっと明るい笑顔を浮かべてくれた。
「嬉しいです! アイドリッシュセブンの皆さんの事、信じて下さって。私も、手が空いたら寮の方へお伺いしたいと思っています。それまで、今日もよろしくお願いしますね!」
紡さんが、ぺこりと私にお辞儀する。
私もぺこりと、お辞儀を返した。
どうやら、紡さんを安心させてあげられたらしい。
良かった、本当に。
寮に帰ってきた私は、早速三階に上がる。
空き部屋の掃除は、昨日みんなと一緒にしたけれど、陸くんの事もあるから換気くらいはしたい。
埃も体に良くないけど、寒いのも良くないよね、たぶん。
だから、一度窓を全開にして、数分後には閉める。
使う部屋は三部屋。
換気して回っていたら、下から誰かが上がってくる気配がした。
もうレッスンを始めるのだろうか。私は急いで窓を閉めて回った。
「あ、この間の」
と、私の顔見て言ったのは、華奢な身体に柔かそうな銀髪の少年。
記憶を掘り起こせば、確かに一度だけ会った事がある。
あの時は、陸くんのお客さんだった、はず。
「こんにちは。私は小鳥遊事務所所属の山中一華と申します。トリガーの、九条天さん、ですよね。よろしくお願い致します」
失礼の無いように深く頭を下げると、彼もよろしく、と短く返してくれた。