第8章 夏祭り
周りは賑やかで分からないが、唇の動きであたしの名前を呼んでいるのは理解できた
ゆっくり人混みをかき分け立ち止まっている彼の元へ進んでいく
「急にいなくならないでくれるか」
『ごめん前に人割り込んできちゃって』
「それだけかい?」
『…足も、靴擦れが』
彼の視線が足元に落ちる。周りに人がいて見えるのか疑問だったが確認した彼はあたしの手首を掴んだ
先ほど割り込んできた人のように斜めに歩きながら、屋台の裏に連れて行かれる
表舞台に比べると暗いそこに人はいるが、やはり少ない
もう少し歩いたところで手首から手を離した彼は膝を曲げて屈み、あたしの足首を取った
『ちょっと?』
「乗せていいよ」
『うん?そういうことじゃないんだけどな?』
そのまま彼の膝の上に足を乗せられ、彼の持っていた巾着から出てきた絆創膏を貼られる
片方が終わればもう片方同じ作業をされ、終われば確かに鼻緒の当たる部分が痛くなくなっていた
『ありがとう』
「迷子になられたら困るからね」
『征十郎なら迷子になっても見つけてくれそうだけど』
「そんなことないよ」
立ち上がった彼はこちらに手を差し伸べてくる
とりあえず握手をすると、予想外だったのか彼の目が丸くなるのが暗い中でも分かる
「迷子になったら困ると言っただろう」
『ああ、手を繋ぐってこと?』
「むしろどうして握手なのか知りたいけどね、さっきも繋いでただろう」
『ありがとうの握手的な…?』
「試合の後くらいしかやらないよ」
楽しそうに笑う彼の反対の手を取られそのまま歩き出す。先ほども何となく思ったが小学生の時に比べ彼の手が骨っぽくなっているのが分かる
今は同じくらいの身長だけどその内彼と目が合わなくなってしまうんだろうなと考えながら、彼の手を解くことなくそのまま歩いた