第55章 全中予選
『か、ずなり』
「…今だけ、こうしててもいい?」
『…』
変わらず何も言えないまま、いつか誰かをあやした時のように彼の背中を優しく叩く
あの時は言葉をかけれたがこういう時はどういう言葉をかければいいのか教えてほしいと、一生懸命脳をフル回転させるが何も浮かばなかった
『ごめん、何の言葉もかけられないや』
「はは、ひでえな」
『ごめんて』
「いや、オレこそ泣いてごめんな」
『泣くことは悪いことじゃないよ』
「…だよな」
それ以上彼が何も喋らなかったので空気を呼んだあたしは彼の背中を叩きながらあやし続ける
どれくらい時間が経ったのか、段々呼吸が落ち着いてきたのでそろそろ大丈夫かと手の動きを止めようとすると急に体が動いた
「だー!高校行ったらキセキの世代倒すわ!ぜってえ倒す!」
肩を掴まれ距離を離される。大きな声にびっくりしながら目をぱちぱちしていると、目元の水を拭った和成が笑う
「もし同じ高校になったら一緒にキセキの世代倒そうぜ、名前ちゃん」
『…え、あたしも?』
「同じ高校になったらな」
『あたし選手じゃないんだけどなあ』
「変わんねえよ!マネージャーだろうが監督だろうが同じチームだって!」
調子が戻ったのか分からないが笑う彼にホッと胸を撫でおろす
無理をしているのかもしれないがそれを言及するのも野暮だろう。和成の言葉に「そうだね」と返してから笑い返した
「さ、帰ろうぜ!明日も決勝だろ」
『そうね、和成も疲れてるだろうし帰ろっか』
「送ってくわ」
『…断っても送ってくれるんでしょ』
「決まってんだろ送ってくわ」
『ありがとう』
肩のあたりが濡れいるが家に帰るまでに渇くだろう
それに家に帰ればお風呂に入らなければいけないと考えながらベンチから立ち上がった彼の横に並び、一緒に歩き始めた