第71章 向かう白、揺蕩う藤色
父上が喜ぶのは俺の帰還や、柱への昇進ではないのだから……
でも、そんな折に白藤が父上の頬を引っぱたいた。
何をしているのかと身重の体で喝を入れてくれたのだ。
あの時。
鬼の子を宿して一番辛かったのは、彼女であったはずなのに……
彼女はあの日決死の覚悟で我が家に来たのだ。
鬼の子が生まれるならば、斬ってくれと父に頼んできた。
「竈門少年。俺はあの日から生き直すことにしたんだ。出来なかったこと、やりたいこと。せっかく長らえた命だ。藤姫殿にも礼を尽くしたい、守りたい……と」
そう、叶うならば。
俺とて君の横で笑いたかった。
だが、彼女が選んだのは俺では無い。
それがどうしようもなく歯がゆくて、切なくて……
それを考えると、胸の奥がキリキリと痛むのだ。
この気持ちを、彼女に伝えるつもりは無い。
それでいい。