第70章 咲くは朱なれど散るは白
「水の呼吸 ……伍ノ型 干天の慈雨」
いつもは冴え冴えと研ぎ澄まされた流麗さを纏う彼の水の呼吸が、この時だけは涙雨のような物悲しい風情であった事を一同は後に語るのである。
後から思えばその瞬間、俺の心も折れたのだ。
いつだって、人から鬼へと変貌した者たちを、俺は何も考えず、斬り伏せてきた。
姉を殺した仇、親友を殺した仇と。
鬼は全て敵であると信じて。
でも、彼女と出会って。
半人半鬼であるはずの彼女に恋をして。
彼女がとても大切で、叶わなくとも二人でいられる時間を少しでも長く共にと……
願ったのは自分であったはずなのに。
今、目の前に転がっている彼女の首を俺はまともに見られない。
彼女の首をかき抱いて、俺は声を上げて泣いた。
常日頃から無表情と言われ続けた彼の泣き顔を柱たちはこの時初めて目にしたのだという。