第70章 咲くは朱なれど散るは白
「白藤!!」
冨岡は必死に彼女の名を呼び続けた。
目の前にいる彼女の瞳は抜け殻のように空虚な物で……
「っ……」
冨岡は歯噛みする。
やはりもう、彼女の意識はないのかもしれない。
ここにいるのはただの人喰い鬼であって、自分が愛した彼女では無い。
ならば、俺は人の脅威であるこの鬼を、この手で斬らねばならない。
柱であるならば。
冨岡は、初めて白藤に刀を向けた。
分かっている。
このまま、技をくり出せば……
だが、不必要な程に呼吸が乱れる。
視界も滲んでよく見えない。
「…………水の呼吸」
すまない、白藤……