第37章 どうか俺の
その時だ。
俺達を引き裂く、悪魔が現れたのは。それは、夏にのみ現れる 黒き悪魔。
そう。
“ 蝉 ” である。
コントロールを失った奴が、俺とエリの間に突進して来たのである。
俺は、こう見えて虫が大の苦手だった。これだけは、努力ではどうにもならない。
あのビリビリという羽音を聞くだけで全身が泡立ってしまうのだ。
「っっうわ!!」
『やっ、やだやだっ!』
エリも蝉の襲来に即座に反応して、耳を塞いで身を小さくした。
俺も俺で、情けない声をあげながら大袈裟に避ける。大きく反応してしまった体は…バランスを崩してしまう。
「……ぁ」
『っ、万理!』
傾く俺に、彼女はすぐに手を伸ばす。なんとかギリギリ、その腕を掴む事に成功した。
「っ、危なかった…エリありが」
『ごめん』
「へ?」
何のごめん?
答えを見つけるより早く、どぼん!と大きな水音が俺を襲った。
すぐに足がプールの底を捉え、そしていち早く顔を上げる。すると、スローモーションでこちらへ落下してくるエリの姿を捉えた。
俺のせいで、彼女を全身ずぶ濡れにする訳にいかないと。がむしゃらに両腕を伸ばす!
その結果、なんとかエリを水から守る事が出来た。
まぁ…上半身だけ。
『……っぷ!
あはは!すごいね万理の反射神経!自分が落ちた瞬間に、私をキャッチする?普通』
「笑うなよ…。こっちはめちゃくちゃ必死だったんだぞ」
さきほどの彼女の ごめん。は、俺を引き上げるのは不可能だと悟った瞬間に出た言葉だったようだ。
とにもかくにも…
自分の身より、エリの身を優先したい。そう勝手に体が反応した事を誇らしく思う。