第5章 さぁ、何をお作りしましょうか?
「ははっ!何度見ても笑えるな。姉鷺 もう一回、もう一回再生してくれ」
「飽きないわねぇ楽。まぁ気持ちは凄く分かるけど」
『………』
彼らが繰り返し繰り返し見ているのは、ブラホワ結果発表の一部始終を捉えた映像である。
姉鷺が、手持ちのビデオカメラで撮影していたものだ。
ステージ上を撮影していたはずの姉鷺は…結果発表の真っ最中であるにも関わらず、フラフラと移動する私に驚き、ついカメラをこちらに向けてしまったという。
従って、主役のTRIGGERではなく 私の姿が映し出されていた。
楽のリクエストを受け、姉鷺がまた同じ内容の映像を再生する。
《 ちょ、ちょっとアンタどこいくのよ!》
《 ……… 》
姉鷺の、自分を引き止める声に 数秒だけ振り向く私。
この顔が、楽のツボらしい。
今にも泣き出しそうな、悲壮な表情を貼り付けている。
「楽…そんなに何度も何度も…春人くんに悪いよ」
「まぁでも、プロデューサーのこんな表情 珍しいから…このDVDは永久保存版かもね」
「ほらな龍。天でさえこう言ってんだぜ。あと3回は見るから、諦めろ春人」
楽は、私の事を春人と呼び。龍之介は春人くん。天はプロデューサー。そう呼ぶようになった。
先日の言葉通り、少しは私の事を認めてくれた結果だろうか。
そして、映像はまだ続く。私が舞台袖を去った後も、当然カメラは回り続けたから。レンズは、消えていく私の背中から 舞台上のTRIGGERを再び捉える。
《 …もう、どうしたのかしらあの子…。発表の途中で 》
《 ブラックオアホワイトミュージックファンタジア、男性アイドル部門、優勝者は…
TRIGGER!
圧倒的な実力で、王座を奪い取りました! 》
司会者のその言葉の後、TRIGGERのメンバーの弾けるような笑顔…。
彼らには絶対に内緒だが。実は、この映像を私は密かに もう20回は見た。
その度に、胸に熱いものが込み上げてくるのだ。
「巻き戻し…っと」
「んもぅ楽!ほんとそろそろいい加減になさい!」
姉鷺の声を無視して、彼は再びDVDを巻き戻す。
私は小さな溜息をひとつ。そして手元の雑誌に視線を落とした。