第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
その時。小さく周りが騒ついた。
声を上げているのは主に女性で、それは彼女も同様だった。
「きゃっ、ラッキー!今日は会えたっ!」
「………」
彼女のそのテンションと明るい声だけで分かる。直接顔を上げて見なくても “ 誰に ” 会えたのか、分かってしまうのだ。
「あはっ、やっぱり今日も1人なんだぁ」
友達も夢中の その人物とは…
今、クラブ通いの女の子達の間で噂となっている “ 烏龍王子 ” である。
近くの女の子も、口々に彼を見て、黄色い声を上げる。
「ウーロン王子だっ!」
「うーんっ、今日もイケメン!」
「今夜は会える気がしてたんだぁ♡」
「今日こそ、声かけてみよっかなぁ」
何故、彼が烏龍王子と呼ばれているのか。
まず、誰も本名を知らないから。そして、彼の注文は決まっていつも…
『烏龍茶を』
烏龍茶なのだ。
バーカウンターでそれを受け取ると、席を探す為 再び歩き出す。
どうか、こちらへ来ませんように!
私は心の中でいつも願う。だって、彼がこちらへ来てしまうと 周りの視線が集まるから。
出来るだけ人から注目を浴びたくない私からすれば、彼はまさに天敵なのだ。
こんなに目立つ人が、もし隣のテーブルにでも来ようものなら…。そう考えるだけで、胃がキリキリと痛む心地だ。
「え、ちょっ、やだっ!こっち来るんじゃない!?やばぁい、どうしよーぅ」
「え゛…」