第54章 もう全部諦めて、僕に抱かれろよ
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目を開けると、信じられないくらい綺麗な男が横たわっていた。
『……び』
(びっくりした!!)
起き抜けに、この美男子ドアップは心臓に悪い。
おまけに、千はほとんど裸も同然なのだ。浴衣は大きくはだけ、もはや衣服としての役割を果たしていない。
『ゆ、千!は、裸!ほぼ裸!お願いだから浴衣直して!』
「ん……エリ、ちゃん…?おはよう」
『おはよう。どうやったら、そこまで着崩れるの…』
薄っすらとだけ瞼を持ち上げた千。再度 浴衣を着直すように言うと、彼はもごもごと口を開いた。
「だって…君が、僕の帯を…持っていったから」
『何言ってんの、そんなわけ…』
私は、自分の手元を見て驚愕した。なんと、そこには千の帯がしっかりと握られていたのだ。彼の言った通り、どうやら犯人は私だったらしい。
『う、嘘だ…』
「…ふふ、寝てる時に、何かを掴みたくなるなんて…子供みたいで、可愛い…。おやすみ」
『こらこらこら!』
しれっと再眠しようとする千を、なんとかしてこちら側へ呼び戻す。
もはや説明は不要と思うが、ここからは本当に大変だった…。
なかなか覚醒しない千を強引に叩き起こし、着替えさせ、顔を洗って歯を磨き。案の定忘れそうになったピアスを手渡す。
しかし、着けてくれ。と甘い声で言われてしまっては、私が装備させるしかなかった。
他人の耳にピアスを着けた経験は、さすがに無くて。業界の宝に傷を付けてしまうのではないかとドキドキしながらも、なんとか遂行した。
ゆっくりと朝食を食べる暇もなく、私達は部屋を出る。
宿を発とうとしたら女将に捕まった。以前 千がこの旅館の為に書いたサインがもう古くなってしまったから、また新しく書いて欲しいとのこと。
もうかなり意識がハッキリしていた千は、快く引き受けた。
そして…
なんとか、N局に辿り着いたのだった。