第5章 夏
ー穂波sideー
研磨くんは美味しいって言いながら
お弁当を食べてくれた。
その度にもう、嬉しくて笑うのを堪えれなくて
にやにやしてしまう。
研磨くんと軽くキスをしたら、
ちょうど小さな男の子と女の子に見られてた。
なんで?って聞かれたけど、
好きだから、したかったからって伝えていいのかな?とか思って、
男の子の話を聞いてみたらたくさんお喋りしてくれた。
女の子は隣でじっとこちらをみていて、
大きくて綺麗な葉っぱを手に持っていたから、
わたしもちょうど葉っぱで遊んでたんだよってみてもらった。
小さい子とお喋りするのは楽しい。
それから池の周りをぷらぷらと歩いて、
ベンチに座って、研磨くんはゲームを、わたしは本を手に、
それぞれの時間を一緒に過ごした。
こういう時間があるとないとって、わたしにとってすごく大きい。
安心できる時間。
研磨くんがゲームをするのは、周りに無関心だからじゃないし、
観察をよくして頭のきれる研磨くんには、
ゲームをしながら周りと関わるぐらいの方が、
情報量がちょうどいいのかなぁとか、勝手に想像してる。
こんな風だけど、ゲームの手を止めて
キスをしてきたりするとこは、ほんとにずるい。
しばらく本を読んでから、
そろそろ帰ろっかとなって、出口に向かって歩いているときに
研磨くんの真ん前で2歳くらいの女の子が転んだ。
咄嗟に研磨くんはしゃがんで、女の子のことを立たせてあげて、
手のひらや膝、お顔についてる砂を払ってあげていた。
そんな動作を、慣れてるわけじゃなさそうなのに、さっとしてあげれる。
研磨くんはあまり喋らないけれど、無情なわけじゃなくって、すごく優しい。
そんなのとうにわかっていたけど、見れてよかったナって思う瞬間だった。
女の子のお父さんがやってきて、
バイバイをしてまた歩いた。
「…びっくりした」
『目の前でペチンって。痛そうだけど、こける姿もかわいいよね』
「…かわいい?こけるのが?」
『うん、大きくなるとできない転け方で、なんだかかわいい』
「…そか」
『研磨くんが優しく砂を払ってるとき、女の子じーっと研磨くんの目をみてたよ』
「……あ、そうなんだ」
『綺麗な目。…きっと忘れても忘れないんだろうなぁ』
そんなことを話しながら駅に向かう。