第11章 露呈
そういえば、と気付いたことがひとつ。
言うことの聞かないクロエを大人しくするために眠らされる時間も長い。
起きていて睨み付けているのにも関わらず欲望を吐き出そうと近付いてくる程だ、薬で寝ている時など格好の餌食だろう。
なのに自分の体は綺麗なまま。
情事の後のような形跡はなく、処理されたにしても体の違和感はわかる。
夜の見張り番のやつらは真面目なやつばかりということなのか。
クロエは首をかしげるが、理由はきちんとあった。
それは出港してまもなくの夜。
見張り番が共謀して数人を牢屋に入れ、出入りを制限した上で眠るクロエを囲んだ。
「寝てるか?」
「移動したりするから、強めの睡眠剤入れたって聞いてる。当分起きねぇよ」
強めに揺する体は力なく、されるがままに動く。
くたりと倒れた弾みで捲れ上がった服の裾から白い腹が覗く。
誰が飲み込んだかゴクリと喉がなり、一人がクロエに手を掛けたときだった。
《私に触るな、》
「…ぅっ!」
バチッと閃光が走り、手を伸ばした一人が吹っ飛ばされ、後方の壁に頭を打ち付けた。
「な、なんだ…」
「起きてたのか!?」
ゆっくりとした動作で上体を起こすクロエ。
開いた瞳は先程の閃光と同様の、青紫色。
《相当こやつを痛め付けているようだな。お陰で表層意識に出てこられた》
痛むのか体を軽く動かしながら言う女が纏う雰囲気は、自分達が見てきた海軍中将のクロエとはかけ離れている。
《好き勝手弄りたいだろうが、この体は私も使う大事なものだからな。壊されてはたまらんのだよ》
腕の腫れあがった注射痕や、暴行でついた切り傷や打撲。
それらが青紫に鈍く光ったと思えば、跡形もなく消えていた。
《ある程度は治せるがな。孕まれたりでもしたら面倒なことになるのはお前達もわかるだろう》
あの男はその辺、能力でうまくやっているようだが…
呟く意味はわからずとも、今自分達がやろうとしたことを咎められているのがわかり、海兵の顔が歪む。
《さて、今後は寝ているときには近付かぬことをお勧めする。まぁ私に会いたいと言うならば止めはせぬがな》
にぃっと笑った顔は新世界の荒くれ物を相手する屈強な海兵の心をも折った。
普段の美しいクロエの顔からは想像できぬ醜悪さだったのだ。
これ以降、訪れるものはいなくなった。