第1章 花信風 滝澤 /平子
その日の夜、私は丈さんの家を訪ねることにした。
真っ暗な道でも、怖くない。
そう思えるようになったのは丈さんのおかげだ。
丈さんに伝えたいことがある。
闇の中に落ちてしまう。そう、思っていた私をずっと支えてくれた丈さん。
両親も、たった1人の大切な人も失った。
それでも、落ちずに済んだのは、丈さんがいたから。それ以外になにもない。
私の視界にはキラキラと眩しい丈さんが存在していて、泣きそうになるくらい愛おしい。
それを伝える決意がようやく出来た。
あと少しで丈さんの家だ。
なんでか分からないけど、涙が出てきた。
「……」
この声…、振り返る間もなく私は意識を手放した。
薬の匂いが香る。