第6章 海辺のバレンタインデー
だんだんお互い本気になって組み手のようになってくる。
つかない勝負に疲れて2人で砂の上にパタリと倒れこんだ。
はぁ、はぁと、お互いの荒い息が波の音に混じる。
「なんで、こんな寒い海辺で、オレら、組み手、してんの?」
「先輩が、仕返し、してくるからでしょ」
「お前が先でしょ」
「そう、でしたっけ?」
「そうだよ」
上がった息で会話もままならない。
息を整えているとふと思い出す。
「そうだ!」
ガバッと起き上がり、ゴソゴソとカバンを漁って小さな缶を取り出した。
パカっと開けると、中には可愛くラッピングした昨日のチョコケーキが入っている。
渡すの、なんか緊張するな……
「あの、先輩……。
これ、今日、バレンタインデーだから……。
いつも、ありがとうございます」
甘いのが苦手な先輩のために、ビターチョコとナッツで作ったチョコケーキ。
料理上手のハナに教えてもらい味見もしたし、味は大丈夫だけど…。
「へえ、ありがと」
先輩はむくりと起き上がり手についた砂を払うと、袋を受け取り中身を一つ口に放り込んだ。
「ん、うまい」
「よかったです」
パクパクと残りのケーキも完食してくれる。
「うまかった。ありがと……」
少し微笑んだ先輩と目が合い、ドキリと心臓が高鳴る。
今なら、好きだって言えるかも……。
口から飛び出すんじゃないかと思うくらい心臓が早鐘を打つ。
「先輩、あの、わたし……」
わたしの言いかけた言葉を遮るように先輩が立ち上がる。
「さ、そろそろ行くか。
帰って三代目に報告書だすぞ」
「え……?
あ、はい……」
先輩はお尻についた砂を払い歩きだす。
今、告白するのが分かったから、遮った?
カンのいい先輩ならあり得そうだ。
やっぱり、わたしじゃダメなのかな……。
そう思うと涙が出そうになって慌てて目を擦る。
今は、まだ一応任務中なんだから、こんなとこで泣いちゃダメだ。
わたしは気持ちを切り替えて先輩の後を追った。