第100章 仮面の男と新たな仲間
ドレッドとの死闘を経て少し距離の縮まった二人だったが、再び困難に直面していた。
「エース!エース舵もっと切って!」
「これが精いっぱいだ!くっそなんだこの海流……!」
空を見上げれば雲一つない青空。
穏やかな風についつい居眠りをしてしまいたくなるような、そんな陽気。
そうだというのに、海の下にはとんだ化け物が潜んでいたようだ。
舵は思うように切れず、船はまるでどこかに引き寄せられるように速度を増し進んでいく。
これが自分たちの望む方角ならば渡りに船と流れに身を任せただろう。
だが船が辿る針路は水琴たちの求める方向とは全く逆。
道路も標識もない海のど真ん中で針路を外れるということは遭難と等しい。
バスの路線図を思い浮かべて頂ければ分かりやすいか。
海流はそれぞれ流れが決まっている。目的地に無事に辿り着くためには適切な海流に乗らなければならない。
得体のしれない海流に身を任せれば、どこへ連れて行かれるか堪ったものではないのだ。
だからエースと水琴は必死に元の海流に戻ろうと船を動かそうとしているのだが、この海流はかなり頑固で特殊らしい。
逃がすものかと船にまとわりつき、油断すればすぐに転覆させようとしてくる。
まるでアリジゴクだ、と水琴は思った。
獲物が落ちてくるのを虎視眈々と待つ砂塵の狩猟者。
もがけばもがくほど砂は落ち、決して逃れることは出来ない。
頭に浮かぶ嫌な想像を振り払い、水琴は風を生む。水琴は焦っていた。もうすぐ昼。ついさっきまで、水琴は昼食の準備をしていたのだ。
入念に下ごしらえを済ませた食材を仕上げだと火にかけていたところの、この騒動。
火は消してきたもののフライパンの中の食材が無事かどうか気になり、水琴はさっきから気もそぞろだった。