第89章 もうひとつの家族
「__って感じでね」
「あらあら」
酒場のカウンターに突っ伏す水琴にマキノはくすくすと笑う。
「それで寂しがってるわけね」
「……だってさぁ。料理も受け取ってくれないし、見に行くのも禁止だし」
ついこの前まで水琴水琴と後をついてまわっていたというのに。
急にできた距離に水琴は疎外感を感じずにはいられなかった。
「同年代で仲良くするのは良いことでこの年頃ならそれが当然なんだけどさぁ……」
「仕方ないわ、男の子ってそういうところあるもの」
塞ぎ込む水琴を慰めるマキノの言葉にそうだよねぇ、と力なく返す。
これではどちらが年上か分からないものだ。
「あの子たちの相手してないなら、少し時間に余裕があるんでしょう?最近忙しくて。よければ手伝ってくれない?」
「いいの?」
「もちろん。頼んでるのはこっちよ」
正直時間を持て余しがちだったのでその申し出はありがたかった。
じゃあお言葉に甘えて、と水琴は暇が出来ればマキノの酒場を手伝うことにしたのだった。
***
酒場での仕事は思いの外楽しいものだった。
元の世界でも弟妹たちに少しでも贅沢させられるようにとバイトをしてはいたが、こういう接客業は初めてだった。
憧れだったカフェ店員になったようで少し嬉しい。
「水琴、向こうのテーブルにこれ運んでくれる?」
「はーい」
「おーい、こっちも注文いいかな」
「はいただいま!」
今はちょうど昼時で、マキノの酒場は賑わっていた。
あちらこちらからかかる声に元気に返事を返しながら、水琴はテーブルの間をするすると駆け回る。