第87章 消えない絆
「なぁ水琴、あれは?」
横に座っていたサボがふと脇に立ててある竹に気が付いた。
「装置に使った余りか?」
「あれは短冊を飾る用だよ」
「短冊?」
「長方形の紙に願い事を書いて竹に飾るの。そうすると織姫様と彦星様が叶えてくれるんだよ」
「なんだその、織姫と彦星って」
「えっとね__」
記憶を掘り起こしながら水琴は七夕伝説について三人に話す。
むかしむかし。
空には天帝という空を統べる神様がいた。
天帝には織姫という娘がおり、それはそれは美しく機織りの得意な女性だった。
年頃になった織姫に、天帝は婿を与えようと考える。
そうして、彦星という牛飼いと出会わせた。
二人は一目で恋に落ち、夫婦として仲良く暮らし始めた。
しかし仲が良すぎるのも困りもので、二人は仕事を疎かにするようになっていった。
それに怒った天帝は二人を天の川で引き離してしまう。
しかし彦星を想い涙する織姫に、年に一度だけ天の川を渡り会うことを許すのだ。
「その日が今日なんだよ」
「へー。一年に一回しか会えないなんて可哀想だな」
子どもらしく口を尖らすルフィにそうだね、と水琴は頷く。
「だけど、たとえ年に一度しか会えなくても。必ず会えると希望があれば、頑張れるんじゃないかな」
遠い海、家族のことがちらりと頭を過ぎる。
どうしてるかな、と感傷に浸りかけた水琴の意識は反対隣に座っていたルフィのそーだ!という力強い声で引き戻された。
「水琴、短冊くれよ!」
「いいよ。何を書くの?」
短冊を受け取るとルフィが何やら綴っていく。
できた、と掲げたそこに書いてあったのは『織姫と彦星がたくさん会えますように』という文字だった。
「会いたいのに会えないなんて寂しいだろ。きっとこれでてんてーのおっちゃんも聞いてくれるだろ!」
ルフィの優しさに水琴は心が温かくなる。
純真な想いに動かされ、きっと今夜は綺麗な快晴に違いない。