第75章 山賊見習いと縮まる距離
「……なァ」
「何?」
「__もし、海賊王の…」
一瞬言葉を切り、エースは続ける。
「__ロジャーの子どもがいたら、お前どう思う?」
軟膏を塗る水琴の手が止まる。
あぁ、この子は知っているのか。
その言葉で、どうしてエースがこんな傷だらけで帰ってきたのか悟る。
__おれ、生きていてもいいのかな。
ボロボロの姿で、ガープへ問い掛けていたエース。
「__別にどうも思わないよ」
包帯を巻きながら水琴は答える。
「だってお前、海賊だろ」
「海賊でも、ロジャーになんて会ったことないし。この時代を切り開いたすごい海賊っていうのは知ってるけど、それ以上のことはあんまり知らないしね」
何が好きで、何が嫌いか。
どんな声で笑い、どのように生きたのか。
私はロジャーのことを何一つ知らない。
「だからロジャーの子どもが生きてるって聞いても、そうなんだとしか思わないかなぁ」
「__そうかよ」
やや落胆した声でエースは呟く。
でもね、と水琴は巻き終えた包帯越しにエースの背中をそっと触る。
「ロジャーの子どもは知らないけど。__私は、エースには生きてて欲しいよ」
ぎゅ、と背中から抱きしめる。
小さな背中は突然の温もりに身体を強張らせた。
「おい、おれのことは別に……!」
「うん。そうだね」
あくまで隠そうとするエースにくすくすと笑う。
話の流れでばればれだと思うが、ここはエースに乗ってあげることにする。