第75章 山賊見習いと縮まる距離
「痛かったら言ってね」
「痛くねェよ」
傷に響かないよう、丁寧に丁寧に水琴は傷を手当てしていく。
「一体どうしてこんなに怪我したの?狩りじゃないなら、喧嘩?」
「………」
怪我の理由をエースは答えない。
手当てをさせてくれただけでも進歩だろう。水琴は黙って手当てを続ける。
「訳わかんねェ」
ふいにエースが呟く。
「お前、ほんとに海賊かよ。弱ェし、お人よしだし、よく野垂れ死ななかったな」
背中を向け顔が見えないことをいいことにぼろくそに言ってくれる。
しかし否定できない。
「エースが言う海賊ってどんなのなの」
「決まってんだろ。海賊なんて好き勝手暴れて人の生活めちゃくちゃにしやがるし、弱い奴をいたぶって、集団でつるんで馬鹿みてェだ」
「うーんそっか。エースは海賊が嫌い?」
「大っ嫌いだね」
力強く断言するエースにそっかぁともう一度水琴は呟く。
「……でもね。海賊もそんな奴らばっかりじゃないんだよ」
新世界で出会った仲間を思い出す。
力はあるのにそれを驕らず。
仲間想いで、優しくて、まっすぐに自分を持っている彼ら。
「人にも色々いるように。海賊にだって色々いる。エースには、いつか本物の海賊を知ってもらいたいな」
「海賊に本物も何もあるかよ」
「あるよ。本物の海賊はね、すごくかっこいいの」
ふふ、と水琴は笑みを零す。
「__なんだよ」
「なんでも?」
未来の本物の海賊を見つめる。
水琴の視線に、エースは決まり悪そうにまた前を向いた。