第73章 時の混じる場所
つんつん。
「ん……」
肩を突かれる感触に水琴は眉を顰める。
それに合わせてぼやけていた五感がだんだんとクリアとなってきた。
風が頬を撫でる感触、水の流れる音が耳に入ってくる。
薄らと水琴は目を開けた。
目に飛び込んできたのは覗きこむ子どもの姿。
「あ……!」
ついさっき壁の中に見た子どもの姿だと気付き思わず声を漏らす。
声を掛けようと起き上がると、水琴が声を掛ける前に子どもはさっと飛びのき距離を取った。
きっ、と強く睨みつけてくる。
「__お前、どこのもんだ。村の奴か?」
「……村?」
「とぼけんな。フーシャ村から来たのか。ジジイの使いか?」
フーシャ村。ジジイ。
確かフーシャ村はルフィの故郷で、エースは保護者のガープをジジイと呼んでいた。
やはりこの子どもはエースなのだろうか。
しかしなぜ子ども?
まさかとは思うが、本当に過去に飛んでしまった……?
いまいち現状を把握しきれないが、不審げにこちらを見つめる視線に何か返さないと、と口を開く。
「私は村の人じゃないよ」
「じゃあ高町か?…それにしてはボロい服装だな」
じろじろとエース(仮)は無遠慮に水琴を眺めている。
ボロくて悪かったな。
「高町でもないよ。…私は、もっと遠くから来たの」
「どこだよ」
「えーっと…」
なんて言おうかと水琴は視線を泳がせる。
馬鹿正直に全て話したところで警戒が解けるとは思えない。
むしろやばい奴扱いされて終わりだ。
しかし目の前のエースを誤魔化せる程、私はこの辺りの地理に詳しくない。
どうしたものか、と思う水琴の視界にさらさらと流れる川が映る。
それを見て水琴は咄嗟に腕を上げた。