第69章 ハリネズミのジレンマ
今は閉じて見えない瞳が、強い意志の光を秘めていることを知っている。
クルーたちとふざけ合う時の、年齢よりちょっと幼く見える悪戯っ子の表情も。
敵と対峙した時の好戦的な態度も。
いつだって心を温めてくれる、太陽のような笑顔も。
「__好きなのになぁ」
こうして今は、穏やかに眠る表情しか落ち着いて見ることが出来ない。
本当は、もっといろいろな表情を見ていたいのに。
出来れば、彼の一番近くで。
「……好き、だよ」
「なら、離れんな」
突如返った声に身体を強ばらせる。
強い視線が下から水琴を見上げていた。
反射的に離れようとするがエースの行動の方が一歩早かった。
手首を掴まれ引き寄せられる。
気が付けば身を起こしたエースに背後から抱きしめられていた。
久しぶりに感じる熱とエースの香りに固めた決意も忘れ咄嗟に風になり逃げようとしてしまう。
そんな水琴を逃げんな、というエースの声が引き留めた。
「頼むから、逃げんな……」
苦しそうなその一言で、水琴は一切の抵抗を放棄する。
力の抜けた水琴の身体を抱きしめ直すと、エースは背後の壁へと体重を預けた。
ベッドに二人の体重が掛かりぎしりと音が鳴る。