第40章 風の呼ぶ声
「おやっさんは水琴のその才能を伸ばしたいんだそうだ」
「親父さんが……」
「だがまぁ最終的には水琴の気持ち次第さ。あんたはどうしたい?」
「………」
突然のことで戸惑いは大きい。
だが、水琴の心を占めるのはそんな戸惑いなど簡単に吹き飛んでしまうような歓喜と高揚だった。
「……もし、私が見聞色の覇気を使いこなせるようになったら」
期待と共にベイを見る。
既に心は決まっていた。
「もっと、親父さんの役に立てるかな」
初めて期待された。
また一歩、あの空へ近づけるかもしれない。
そう考えると、居てもたってもいられなかった。
「どうすればいいの?」
「……あんたなら、そう言う気がしたよ」
切れ長の目が優しく細まる。
「覇気を一から習得するのはかなり難しい。だが水琴はもう覚醒はしているから、あとは感覚を掴むだけだ」
「感覚を掴む……」
「カゼカゼの実の能力者なら簡単さ。風の声をよく聞けばいい」
立ち上がり窓辺により、大きく開け放つ。
冷たい風がカーテンを揺らし部屋中を駆け巡った。
身体を包む冷気にぶるりと震える。
「滞在中この小屋を貸す。よく風に耳を傾け、声を聞きとるんだ」
「声って……」
「食料や必要な設備は揃ってる。聞こえるまではこの小屋から一歩も離れないこと。クルーと接触するのも禁止だ」
「えっ?!」
「なんかあったらあたしに言いな。そこの電伝虫で連絡が取れる」
「………」
「じゃ、しっかりね」
爽やかな笑顔でベイが出ていく。
軽い音を立てドアが閉まった。
「……簡単って、なんだっけ」
久しぶりに味わう常識の差に水琴は遠い目をするのだった。