第39章 力の重さ
あの島を出てから数日が経つ。
穏やかな海をぼんやりと眺めながら水琴はいつもの場所で一人時間を持て余していた。
毎日欠かさず行っていた能力の特訓にも身が入らず、空き瓶は悲しげに隅に転がり埃を被っている。
マルコからは勘を鈍らせないよう特訓は続けた方がいいと言われているが、どうしても無理だった。
手をかざせばあの日のことが蘇り手が震える。
能力を使おうと思っても、頭にあの時のことが過ぎりただ風を生むことさえも困難になった。
心理的な問題だろうとマルコは言っていた。
誰かを傷つけたくないという無意識のブレーキがかかり、そのために能力が発動しないのだろうと。
自然系の実は能力者の精神が強く影響する。
このままでは水琴は名ばかりの能力者となるだろう。
それでもいい、と水琴は思う。
元々風の暴走を起こさないようにと始めた特訓だ。既に驚いて暴走を起こすことはなくなっているので、風が生めずに困ることはそんなにない。
誰かを傷つけてしまう能力なら、使いたくなんてない。
__未練があるとすれば、一つ。
もう、このどこまでも続く蒼穹を飛ぶことが出来ないということだけだ。
「それはちょっと、寂しいなぁ……」
異なる二色の青の狭間で自由に舞った時の感動といったら。
忘れようとしても、きっと無理だろう。
手摺にもたれかかり目を閉じる。風が頬を撫でる。
この風はこんなにも優しいのに。
どうして私は思うようにいかないのだろう。
「お、ここにいたのか」
「エース……」
隣いいか、とエースが手摺に背をもたれさせる。
海を臨む水琴とは反対に視線を向けたまま、エースはハルタから聞いた、と呟いた。
「怖かったな」
「………」
「つらかったろ」
「……うん」
気付けば頬を涙が伝っていた。
今まで”あれくらい大したことないから気にするな”とか”まだ慣れてないんだからしょうがない”とか、そんな慰めの言葉は沢山かけられた。
けれど、今みたいに水琴の気持ちに最大限寄り添ってくれる言葉は初めてで。
ずっと胸の内に秘めていた気持ちが堰を切ったように溢れ出し、水琴はその感情のままに口を開いた。