第39章 力の重さ
医務室に向かうハルタを見送り自室に戻る。
本当は手当ての手伝いもしたかったが、傷口を見るのは精神的によろしくないとイゾウに追い返されてしまった。
ベッドに腰かけサイドデスクの本を無造作に手に取る。
読書の気分ではなかったが、日課をこなしていなければ余計なことを考えてしまいそうだった。
読んでいたのはマルコおすすめの冒険小説。意外にも読書家である彼が勧めるだけあって、ひとたびページを捲れば一気に物語の中に惹き込まれる良作だった。
だがいつもは水琴の心を震わせる数々の冒険も、今は文字の羅列として目の上を滑り流れていくばかりで役には立たない。
それでも何もしていないよりはマシで、水琴はパラパラとページを捲っていた。
と、鋭い痛みが指先に走り我に返る。
「いたっ……」
紙で切ったのだろう。細い線からじわりと赤が滲む。
その色が脳裏の鮮烈な赤と被って見えた。
紙で切った傷などすぐに消える。
でも、あの傷は簡単には塞がらないだろう。
傷ついた指を包むように両手を重ね握る。
馬鹿だった。
出来なかったことが出来るようになって、浮かれていた。
私が手に入れた力は、決して玩具の銃じゃなかったのに。
それはほんの少しの油断で、簡単に人を傷つける。
その気になれば、いとも容易く命を奪える”凶器”
手が震える。
力の重さに立っていられなくなる。
大きな力は、この前まで平和しか知らなかった水琴には恐怖でしかなく。
「___っ」
漏れそうになる声を必死に殺し、水琴は静かに涙を零した。