第27章 月の民の心の行方
四日目の夜。モビーディックの甲板は人で溢れていた。
水琴が明日船を下りるということはすでにメンバー全員に知れ渡っているようで、目が合うと何かを言おうとする者、それをどついて止めようとする者、馬鹿正直に涙を流す者様々だ。
「帰るそうだな」
「ジョズ」
ひと際高い位置から呼び止められ見上げれば、静かな瞳と目が合う。
一緒に洗濯物を干しながら他愛もないおしゃべりに興じたことが懐かしい。
「うん。今までありがとう」
「それはこっちのセリフだ。水琴が来てから随分楽しい日々を過ごせた」
「私もだよ」
「水琴ちゃん!」
後ろから呼ばれ振り返る前に肩を叩かれる。
振り返ればジョッキを掲げるサッチが明るい笑みを浮かべていた。
「水琴ちゃんがいなくなると寂しくなるぜー!なんたって貴重な癒しの花だからな」
「そんなこと言ってー。綺麗なナースさんたちがたくさんいるじゃない」
「ナースは確かに美人揃いだが、一癖も二癖もある連中ばかりだからなぁ」
「それ、私は単純って言いたいわけ?」
「いや、からかいがいのあるやつがいなくなるのは寂しいなと」
「もー、サッチ!」
「そう、それそれ!」
からからとサッチが笑う。
「しんみりとした空気は似合わねぇよ。
水琴ちゃんはそんな顔の方が似合ってるって」
最後まで笑顔で普通に接してくれる様子に自然笑みがこぼれる。