第4章 夕虹
乗ろうとしてる電車の時間まで、少しあいてるから、と、駅前のコンビニに入った。
夜食に食べるチョコレート菓子を物色してると、
「……大野さん?」
後ろから、知った声がして固まる。
裏バイト帰りの一番誰にも見られたくない姿。
男の匂いは残ってないか。情事の痕跡は見えないか。
なぜ、こんな時間にここにいるのか。
コンマ何秒かでそれらを確認して、答えを用意する。
無視することもできないから、ゆっくり振り返ると、そこには驚いた表情のなかに、嬉しさを隠しきれない……松本の姿。
「うわぁ……こんなとこで会えるなんてすごい偶然」
「……そうだね」
俺は、曖昧に微笑んだ。
もう23時半になろうかというこんな時間に、知り合いに会うことなんか今まで一度としてなかったのに。
俺は、なんだか真っすぐに松本を見ることができなくて、手に持ってるミルクティーのボトルを弄んだ。
真っ当に学生生活を送ってる松本。
キラキラした普通の……本当に普通の世界で生きてる松本。
全てを理解して納得して決断して。
そのうえでこの裏のアルバイトをしてるけど……自分がなんだかひどく惨めに感じた。
そして、そんな自分をこいつにだけは見られたくなかった、と思ってしまうことに戸惑う。
……なんでだろう。
だが、俺が、そんなことを思ってるなんて夢にも思ってない松本は、無邪気に問いかけてきた。
「どこか出かけてたの?」
「ああ……うん。そんなとこ」
俺は、不自然にならないような笑顔で頷いた。