第13章 夏夜の願い
花火大会を今晩に控えていたが、すずらんの体調は日に日に悪くなっていた。
今は吐き気がすごくて、食べたものをほとんど吐いてしまう。
唯一果物と、何故か揚げた芋が大丈夫で、ほとんど水分とそれだけしか食べれなかった。
すずらんは赤ちゃんが大丈夫か不安がっていたが、まだ小さな赤ちゃんにはそれで十分だそうだ。
行けるかは分からないが、一応花火が始まる前に火影室を出る。
家に帰ると、すずらんがベッドにうずくまっていた。
そっとその頭を撫でる。
「すずらん、大丈夫?」
「あ、カカシ、おかえりぃ。
ん〜、気持ち悪い…」
コロリとこちらを向くすずらんの声は弱々しい。
頬にかかってしまった髪を払ってやると嬉しそうにニコリと笑う。
「あ、シマがカカシの晩ご飯作ってくれてるから、温めて食べてね」
シマさんは、すずらんが体調を崩してからちょこちょこ家に来て、色々と家事をしたり、すずらんの話し相手をしてくれている。
小さい頃から一緒のシマさんだから、すずらんも遠慮せずなんでも頼めるようで本当に助かっている。
「ありがと。
今日やっぱ花火行けないね」
「うー、行きたかったけど、あの階段上れる自信ないなぁ…」
むくりとすずらんがベッドから起き上がり、窓の外を見る。
寂しそうなその背中を見ていると、ふといいことを思いつく。
そのときどぉ…ーんっと少し遠くで花火の音がする。
オレは部屋の窓から屋根の上に上がる。
「カカシ?」
すずらんが不思議そうに窓から顔を出す。
花火の上がった方を見ると、小さいが火花が散っていくのが見える。
「やっぱり」
再び窓に戻るとすずらんを抱き上げ屋根に上がる。
「うちからも花火が見えるみたい」
そっとすずらんを屋根の上に下ろし、花火に1番近い場所まで行き、胡座をかきその上にすずらんを座らせる。
するとまた鮮やかな花火が黒い夜空に上がった。
「わぁ…」
すずらんが感嘆の声を上げる。
場所が少し遠いから去年のような迫力はないが、ここからでも十分楽しめる。
ドォン、ドオーン、と上がる花火を2人しばらく無言で見上げていた。