第9章 正月
「あのね、カカシ。
良かったら一緒にここでお正月むかえない?
大晦日に来て、年越し蕎麦食べて、初詣行って。
シマの作るお節も、お雑煮も、すごくおいしいんだよ」
家族のいないオレは、何年もお正月らしいお正月を過ごしていなかった。
「オレなんかがお邪魔しちゃっていいのかな?」
「うん。お父様が誘ってみなさいって言ってくれたの。
ガヤガヤしてうるさいけど、よかったら」
「ん、じゃあお言葉に甘えて」
「やったぁ!」
子供みたいに喜ぶすずらんが可愛くて抱き寄せる。
まだ少し濡れていい匂いのすずらんの頭に、口付けるように顔を埋める。
すずらんの手が、オレの背中に回る。
そして、顔をオレの胸に寄せて目を閉じる。
互いの温もりが溶け合うまで、オレたちはただただ抱き合っていた。
あっという間の仕事納めを終え、今日は31日。
去年は大戦後すぐで、バタバタしてお正月どころではなかった。
まだまだ問題は山積みだが、今年無事にお正月を迎えられそうなことが単純に嬉しい。
部屋を掃除し、夕方すずらんの家に向かう。
大名家のお正月って、どんなだろう。
普通のお正月も何年も過ごしてないのに。
少し、いや結構緊張してしまう。
屋敷に着くと、すずらんに手を引っ張って居間へと連れてこられる。
そこにはたくさんのご馳走と、すでに顔が赤くなっているイッシンと、ここに仕えている人たちだろうか。
とにかくたくさんの人たちが、飲んだり食べたり賑やかに過ごしていた。
「おお〜、火影殿、やっときたか!
座れ座れ!」
と、イッシンが手招きする。
「あっこれつまらないものですが」
と、イッシンの好きなモナカを差し出すと、
「火影殿はもう家族も同然なんだから、気なんか使わんでいい。
次からは手ぶらで来なさい」
と、くすぐったいことを言われる。
家族、か……。
「毎年、晦日は無礼講でこうやって過ごすのがうち流でな。
火影殿も遠慮せずやってくれ」
「もー、お父様は毎年酔い潰れるんだから、ほどほどにしてください」
すずらんの小言もなんのその。
「おい、すずらんも今年から飲めるだろう。
ほら、飲め!」
と酒を注ぐ。