第1章 お見合い
食事を終え茶をいただいてから、「すずらんさん、せっかくきれいな庭園があるので、少し散歩しませんか?」と切り出す。
このときはまだ、すずらんに対して、さくらに対する気持ちに近い感情だったと思う。
親心のような感情、と言えばいいのか……。
それに、明らかに本意ではないこの見合いを乗り切りたいのは、こちらも同じだった。
断るにしても、今日をなんとか円満に収め里に帰りたい。
うるさいジジババに何か言われたんじゃ、たまったものではない。
すずらんは躊躇っていたが「行って来い」と父に促され、渋々オレについて外に出た。
しばらく石畳の上を天気の話などをしながらブラブラと歩いてから、縁側を見つけ座りましょう、と促す。
しばらく空を見上げてぼーっとしていると、沈黙に耐えかねたかのようにすずらんが口を開く。
「あ、あの、なぜ木に登っていたか、お聞きにならないんですか?」
膝に置いた手でキュッと着物を掴み、下を見たまま一息に言う。
少し意地悪したくなり、「聞いてほしいんですか?」と畳返す。
すると、パッとオレを見上げてカァっと頬を染める。
二の句を告げないすずらんに、やり過ぎたなと「すみません。少し意地悪でした。
なんで木に登ってたのか、聞かせてもらえますか?」と笑顔で返す。
明らかに怒った顔でプイッと下を向き、それでもすずらんは話し出す。
「この縁談が、破談になればと思ったのです。
木に登る変な女なんて冗談じゃないと怒って帰ってくだされば、と。
でも、あなたは笑って何事も無かったかのような顔をするから!
だから、困ってしまって……」
「あはははは!」
話の途中だが、堪えきれずに笑い出してしまう。
「っ!!
真剣に考えたことなんです!笑わないでください!!」
立ち上がって怒るすずらんに「すいません」と謝りながら、笑いすぎて出た涙を拭う。