第5章 樹上の逢瀬
「なかなかゆっくり会えなくてごめん」
「お仕事が大変なのは、分かってますから」
「あ。また敬語」
指摘すると、すずらんが頭を抱える。
「あー、そうだった。
もー。慣れない」
可愛い仕草に頬が緩む。
「また、逢いに来ていい?」
「うん。待ってる」
嬉しそうにうなずくすずらんの笑顔に、顔を寄せて軽く口づける。
「じゃあね。おやすみ」
名残惜しくて、滑らかな頬を撫でてから、窓から塀に飛び移る。
「おやすみなさい。気をつけて帰ってね」
手を振るすずらんに微笑んで、屋根伝いに、夜の町を駆けぬけた。