第1章 お見合い
しかし女はフイッと横を向いて一向に降りてこない。
鮮やかな赤の着物や綺麗にセットされていたであろう髪は、乱れてしまっている。
「ぷ…」
その凄まじい光景に思わず笑ってしまう。
すると、みんなが振り向きギョッとした顔になる。
「こ、これは6代目火影殿!!
お見苦しい所をお見せしてしまった」
大名が大汗をかきながら、しどろもどろ、あいさつをする。
「はは、お構いなく。
朝から珍しいものが見れて、目が覚めました」
「少しばかりおてんばな所があってな…」
これが少しばかりかよ、と心の中で突っ込みを入れる。
「すずらん!6代目が来られたぞ!
いい加減降りてこい!」
「嫌よ!私はお見合いなんてしません!!」
顔を真っ赤にして今にも自分で木に登りそうな大名を制して、すずらんに声をかける。
「そこにいてもお見合いは終わりません。
お見合いが嫌なら嫌で良いので、とりあえず降りてきませんか」
オレを上から睨みつけて、すずらんが「嫌よ!!」と大きな声で言う。
大名が、「すずらん!火影殿に向かってなんて口の聞き方だ!!」と怒鳴るのを宥めて、もう一歩歩み寄り、軽くジャンプしてすずらんが跨る枝の先の方に立つ。
すずらんがズリ、とオレから離れようと後ずさる。
「手を。
怪我をしてはいけないから、とりあえず降りましょう。
父上も、お付きの人も、心配していますよ」
スッと手を差し出すと、しばらくジッとオレを睨んでいたけどしぶしぶ手をさしだす。
白くて細い手を取ると、「失礼」と引き寄せ一気に抱き上げる。
フワリと微かな花のような匂いが鼻腔をくすぐる。
「きゃっ!」とすずらんが小さく悲鳴を上げるのと同時に、お姫様抱っこで一気に木から飛び降りる。
スト、と地面にすずらんの足を下ろすと、パッとすずらんがオレから離れた。
大名が赤い顔で怒鳴る。
「バカモン!
見合いの日に木登りする奴があるか!
とっとと身支度して来い!」
不服げな様子で従者に連れて行かれるすずらんを見送ると、大名が頭を下げる。