第3章 風邪
優しい子だ。
「ありがとう」と言うと、すずらんが「はい」と微笑む。
「あの、お粥の作り方を聞いてきたんです。
食べられそうなら、台所を借りて作らせてもらってもいいですか?」
よく考えたら、昨日帰ってから動けなくて、薬も飲めていなかった。
もう色々とどうでもよくなり甘えることにする。
「ありがとうございます。いただきます」
「はい!では作ってきますね!」
嬉しそうな表情を浮かべ、すずらんがさっそくキッチンに向かう。
なんか奥さんみたいだなと思ってしまい、慌てて取り消す。
いやいや、ないでしょ。
熱で頭がやられちゃったのか。
もう何も考えるまいと、目をつぶり寝ようと試みる。
ーーーしかし。
トン、トン、トン、慣れていない人独特の包丁の音。
「いたっ!」という悲鳴。
しまいには、ブシューっ!とお鍋から何かが溢れたような音。
火影になったんだから引っ越せと言われるけど、面倒くさくて居ついていたワンルーム。
小さなキッチンも部屋から丸見えで。
心配で寝ていられなくなり、のそりと起き上がりキッチンに行く。
そこにはどうやったらこんなに散らかるんだ、というキッチンと、吹きこぼれだらけになったコンロと、困り顔のすずらんがいた。
「大丈夫ですか?手伝います」
「だっ大丈夫です!
火影様は病人なんだから、寝ててください!」
そう言って、両手でオレを追い返そうとする。
火が止まっているのを確認し、その手に、包丁で切ったであろうキズを見つけ、消毒液と絆創膏の入った棚へ向かう。
「指、ちょっと怪我してます。
とりあえず手当てを」
俯いて黙ってすずらんがされるがまま大人しくしている。
シュッと消毒液を吹きかけ、小さな絆創膏をぺたりと巻く。
「はい。できましたよ」
「……ごめんなさい。
火影様、風邪なのに逆に迷惑かけちゃって……」
下を向いたすずらんが涙目になっている。
「もしかして、初めて料理しました?」
コクンと小さく頷く。
かわいい。と思ってしまう。
「オレのために頑張ってくれて、ありがとうございます」
すると、すずらんがすごく嬉しそうな顔で微笑む。
ヤバイ。可愛い。
ダメだ。オレ、溜まってんのかな。
そういや、最近忙しくて抜いてなかったし…。